「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」世界遺産登録前の予習に最適【本】純忠〜日本で最初にキリシタン大名になった男 

2018年7月にようやく「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が、ユネスコ世界遺産に登録される見込みとなった。

私も長崎出身ということで、この登録への機運を盛り上げるための長崎県主催の講座やイベントなどで演奏の機会をいただいてきた。微力ながら応援してきたので、実に感慨ぶかい。そして長かった。過去のブログを検索してみると、最初にイベントで「天正遣欧少年使節が聴いた音楽、弾いた音楽」を演奏したのが2006年、10年以上も前のことであった。

そんな今年、キリシタンに関する新しい本が出版された。

日本で最初のキリシタン大名 大村純忠

純忠 日本で最初にキリシタン大名になった男 清涼院流水

『純忠 日本で最初にキリシタン大名になった男』清涼院流水・著/WAVE出版

最初のキリシタン大名となり、信長よりも先に南蛮風の服装をまとった男、大村純忠の物語である。
著者・清涼院流水氏は完成に7年もの歳月を費やしたという。

現在、長崎空港があるのが大村市であり、そこを治めていたのが大村家であった。そして、JR大村駅と空港の間あたりには「天正遣欧少年使節」の像が建てられている。

 

大村純忠から天正遣欧少年使節、そして世界遺産まで

大村純忠は1533年生まれ、1587年没。ヨーロッパではルネサンス・リュート音楽が最盛期を迎えていたころにあたる。

これまで九州西部の勢力図と血縁関係を把握するのがなかなか難しく、今ひとつ理解できなかったのだが、大村純忠という一人の人物を中心に、その眼で眺めてみるとすっきりとわかりやすい。

血縁関係や主従関係にありながらも、時として敵味方に分かれて戦わなければならないこともあるから、戦国武将は辛い。その心理描写も繊細で、読んでいて思わず感情移入してしまう。なにより人物のキャラ設定が巧みで、まるで姿が見えるかのよう、声が聞こえるかのように感じてくる。

特に、最後の20数ページ、台頭してきた龍造寺隆信との対決、純忠の凋落から復活までのシーンはクライマックスにふさわしく、映画を見るようにドラマチックで感動的。文章の切れ味がすごい。

そこから一気に、秀吉による伴天連追放令から天正遣欧少年使節の帰国、禁教令、250年後の信徒発見、そして今年の「世界遺産登録」までの流れをたたみこんでいく「補遺」によって、今を生きる我々と大村純忠が一本の線でぐーっと結びつけられる。

実にうまい。まんまと読ませられてしまう。長編小説ではないのに、時間的スパンの壮大さと、主人公・大村純忠のユニークさで、ずっしりと充実した読後感が残る。

長崎在住の方にも、キリシタン史をざっくり知りたい方にもおすすめ

当たり前だが、故郷・長崎の地名が出てくる。

幼少期に遊園地に行った福田、小学校の遠足に行った針尾、白鷺の写真撮影に出かけていた西海町あたり、高校時代の遊び場・平戸、高校総体の応援に行った大村、実家のある長崎・・など、地名からその風景が懐かしく思い出される。

しかし、450年前にこんな歴史のドラマが繰り広げられていたとは。その頃は全く理解していなかった。次に帰省した時にはゆっくり訪れて、その場所に立ってみようと思う。

 

長崎に住んでいる人にとっては、郷土の歴史の特異性を知る良いガイドとなる本であろう。ずっと長崎に住んでいる人々にとっては、当たり前すぎてその特異性がわからないことが多い(私も東京に出るまでそうだった)。

そして「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産登録されるのを機会に、少しでも日本におけるキリスト教の始まりを知っておきたい、けれども難しい専門書は読みたくない、という向きにはおすすめの書である。

 

フロイスからみた戦国時代の日本

なお同著者による『ジャパゥン ルイス・フロイス戦国記』が同時刊行で発売されている。

ジャパゥン 清涼院流水

『ジャパゥン ルイス・フロイス戦国記』清涼院流水・著/幻冬舎

こちらは、同時期の日本を記録し続けた宣教師ルイス・フロイスの『日本史』に基づくもので、これを第一巻として今後も続編が予定されている。

フロイスは日本で見たすべてを克明に書き記そうとした。そんな「記録者フロイス」に対して、英訳者でもある著者が同じ文筆業者として深く共感しているのが読み取れる。
一見、異常ともいえるルビの振り方に、異国の言葉とその表記に対するこだわりが感じられる。(編集者と版下作る人、大変だろうな・・・と思うが、そこは幻冬舎だからむしろ積極的だったのかもしれない)

 

天正遣欧少年使節についての詳細情報は

日本におけるキリスト教史、あるいは天正遣欧少年使節について、もっと詳しく知りたい方には、若桑みどり氏の「クアトロ・ラガッツィ」をおすすめ。
厚さ5センチはある大著。枕になりそうなくらい。

クアトロ・ラガッツィ 若桑みどり

最近は文庫版も出ている。

フロイスの『日本史』は完訳 全12巻が出ている。

キリシタンの音楽に関してはこの本が詳しい。特に、巻末の参考文献一覧が役立つ。

忘れてはならない、皆川先生によるオラショを始めとするキリシタン音楽入門の書。

リュートを嗜まれる星野博美さんの著作。