映画『ふたりの女王』メアリーの恋人はリュートを弾く
映画「ふたりの女王」を觀てきた。二人の女王とは、スコットランドのメアリー・スチュアートと、イギリスのエリザベス一世のこと。
邦題は「ふたりの」となっているが、実質的な主人公は(原作のタイトルも)スコットランド女王、メアリー・スチュアートである。
メアリーの恋人、イタリア人音楽家デイヴィッド・リッチオ
私の一番の関心事は、メアリーの恋人であったイタリア人音楽家、デイビッド・リッチオがどのように描かれているか。
リッチオにはこの(やや間抜けな)肖像画が残っている。ただし描かれたのは19世紀。
顔から描き始めて、リュートにたどり着かないうちに飽きてしまった感がすごい。
眠るリッチオの手にはリュート。
スコットランドやイギリス人には、このあたりの歴史的事件は絵画の題材として気をそそられるらしく、リッチオがメアリーの目の前で惨殺されるシーンを描いたものがたくさんある。
リッチオのアトリビュートとしてリュートが描かれているが、多くは19世紀に描かれたものなので、リュートが上記の作品のようにアーチリュートっぽい形だったりもするが、これは仕方ない。
映画『ふたりの女王』でのリュートと音楽
さて、この映画でリュートは小道具として登場するか?!
と思ったら、期待通り。
メアリーのそばで歌うシーンでリッチオが登場、そしてその片手にはリュートが!
しかし弾きはしない。持ってるだけ。
他にも宮廷楽師がシターンやルネサンスギターを演奏する姿がチラッと登場する。
そして演奏されるのは、メアリーがフランス宮廷育ちであったため、イギリス音楽ではなく、フランスのブランルなど大陸側の音楽だった。
途中、ディミニューションなしの「Mille Regretz」(千々の悲しみ)がリュートソロで流れてきて、深く印象に残る。エンドロールで確認したところ、Jacob Heringman氏が演奏を担当していた。美しい演奏。
スコットランドの「宮廷生活」
映画としては、派手なアクションシーンやドキドキするようなドラマティックな演出はないものの、一瞬たりとも飽きることなく引き込まれる。
二人の女王の女心に焦点をあて、それ以外の事柄を盛り込みすぎなかった点が成功しているように思える。
多人種の俳優さんを起用している点も、最近の演劇と同様の傾向か。東洋人の侍女が登場することで、現代の私達との距離がぐんと近づき、400年の時を超えて、二人の女王の生き方を自分たちの問題として共有できる。
しかしながら、スコットランドの宮廷とは、何と荒涼として寒々しいのだろう。
メアリーの置かれた状況から仕方ないのかもしれないが、およそ「宮廷」というイメージからはかけ離れた寂しい雰囲気で、多くの男性臣下に囲まれたエリザベスと対照的であった。
エリザベスとメアリー、二人の女王の後継者となるジェームズ1世が、後にスコットランドよりイギリス宮廷を好んだのもわかる気がする。
秋にジェームズ1世宮廷での音楽を演奏する予定があるので、イメージをふくらませるにちょうど良いタイミングでの映画鑑賞であった。