声で読みたい家族の物語『家族の言い訳』(森浩美)
先日、所用で2泊3日の小旅行に出ることとなり、移動中に読むものを求めて本屋に出かけた。
3日間で読み終えることができ、荷物にならない重さで、内容的にも重すぎないテーマで・・・と考えながら、平積みされていた文庫本の中から手に取ってみたのがこの本。
『家族の言い訳』(森浩美:双葉文庫)
解説をNHKアナウンサーの結城さとみさんが寄せていて、この短編集をラジオ番組『ラジオ文芸館』で朗読したことがあるという。
朗読する人が魅力的と感じる作品とはどんなものだろう。朗読音楽会の台本執筆や演出に役立つかもしれないと思い、この本に決めた。
8篇の短編集が収められている。
どれも、親として子として、あるいは夫婦として、誰もがどこか思い当たることのあるエピソード。
「薄情で軽薄な世の中になったとはいえ、家族との絆は深く重く、そして厄介で面倒な代物である。希望やあきらめ、下ろすに下ろせない荷物を背負うが如く、誰しもが日々の中で共生している。淡々とした悲しみや切なさ。ささやかな幸せの確認。そんな場面を切り取ってみたかった」(作者あとがき)とある。
どの作品も、ドロドロとした感情を扱いつつも抑制が利いていて、結末は淡白にあっさりと着地する。きっちり白黒つけてしまわずに余韻を残すところが、朗読向きなのかもしれない。
悪く言えばちょっと物足りなく、良く言えば上品。
実を言うと、今回の私の旅の「所用」とは父の17回忌の法事であった。
人の死はドロドロとした確執を生むことも多いが、17回忌ともなれば、むしろ老齢の母と妹と久しぶりに過ごす気楽な集まりであった。この感想には、そんな私の心理も大いに作用しているだろう。
旅から帰宅してから声に出して読んでみると、なるほど言葉のリズムがよく、一文がちょうど一息にのってテンポ良く進んでいく。
作者、森浩美氏は放送作家であるのに加え、作詞家として700曲を超える作品を書いているという。この経歴が、声にのる文体という特徴に生かされているのかもしれない。
この短編集から始まる「家族小説」シリーズは、累計50万部のベストセラーとのこと。もし朗読する短編作品を探している方には、選択肢としておすすめしたい。