【本】和洋折衷音楽史
幕末から明治時代にかけての日本における音楽状況の参考書籍として、『和洋折衷音楽史』(奥中康人・著/春秋社)を読んでみた。
この本でも、月琴音楽、明清楽については一言も触れられていないのだけれど、これはこれで非常に面白く読んだ。
硬めのタイトルとは裏腹に、2010年から2年間、雑誌『春秋』に連載されたエッセイが中心となっているので、一般読者にも読みやすい文体で、専門用語も少ない。
あっという間にスイスイ読める。
しかしながら、内容的には、ほとんど知られていない分野、種類の音楽を取り扱っている貴重なものだ。
インターネット、文献資料、現地調査(フィールドワーク)を組み合わせての、実に地道な長期にわたる研究がもとになっている。
筆者の専門は「ラッパ」についてなのだが、私が興味をそそられたのは
・幕末、長崎海軍伝習所でのスネアドラム譜
・邦楽を五線譜化する場合の、メリットとデメリット(あるいは限界)
・口伝を主にしてきた邦楽と、録音・録画技術との関わり
などについてであった。
これから読んでみようという方には、本文だけでなく、ぜひ各エッセイの「脚注」も読み飛ばさないで欲しいと思う。
エッセイ本文では紙幅の関係で書き切れなかったと思われる、ちょっとした嬉しい発見とか、笑ってしまう情報が満載で、実に楽しい。
「これぞ、フィールドワークの醍醐味!」と思うようなワクワク感が伝わってくる。
このような小ネタ情報は研究論文に含めるほどではないものの、研究途中で偶然出会って胸が踊る体験をもたらしてくれるものだろう。こういうことが案外、地味で根気を要する研究を励ましてくれるのかもしれない。
明治時代の文部省は一国の音楽文化が一つでなければならないと考えたけれど、
21世紀の今は「・・・音楽をローカルでプライベートな領域に・・お互いの顔がみえるくらいの近い距離のなかに・・取り戻してみてはどうだろうか」と、著者は提案する。
サロン形式でのコンサートにこだわってきた私には嬉しい提案である。
そして民族音楽の楽器の変遷という視点から見ると、原理的伝統主義は豊かな音楽文化をもたらしはしない、という指摘も重要だと思う。