風鈴を鳴らしたのは誰なのか?〜明清楽へのオマージュ「胡蝶」(原島拓也・作曲)初演終了

2018年6月15日 桐朋学園大学音楽学部作曲科による「第40回作曲作品展」、終了いたしました。小雨の降る中ご来場いただいたお客様、どうもありがとうございました。共演の桐朋学園大学の皆様、お世話になりました。

 

月琴の機能的限界に挑んだような、大変に意欲的な作品でした。

それに加えて私の演奏技術の限界もあり、作曲の原島拓也さんの意図に十分応えることが出来たかどうか、甚だ疑わしいのでありますが、日本における月琴の歴史に新たな1ページが加えられたことに間違いはなく、その場に参加できたことを光栄に思います。

 

作品の中間部にかなり長い月琴ソロから続いて、バリトンの歌と二重奏になる部分があります。声と馴染むような、まるで声で二重唱しているように月琴を弾きたいなあと思い、ピックをいつものべっ甲(右)ではなく、牛のヒズメ製のピック(左/星野孝司氏・作)を使用することにしました。

月琴の義甲と「胡蝶」楽譜の写真

ピックというのは、一つ一つ手作りですので、素材よりも個体差の方が大きいかもしれませんが、この「不知火」という銘のピックはとても温かな柔らかい音が出ます。

これは星野さんがCDリリースのお祝いに下さったもので、以前から持っていたのにその特徴に気がついておらず、今回「ふと自分の掌の中を見ると宝石を握っていた!」みたいな歓びがありました。

今後も愛用のピックになりそうです。

 

「胡蝶」作曲の原島拓也さん、バリトン菅原洋平さん、月琴の永田斉子の写真

左から バリトンの菅原洋平さん、私、作曲者の原島拓也さん。

莊子の説話「胡蝶の夢」にインスピレーションを得た作品なので、衣装も中国っぽいイメージで。

最高に怪しげに(?)華やかに!

明清楽へのオマージュ「胡蝶」演奏メンバー

演奏後に、演奏メンバー全員で記念撮影〜☆

後列左から:菅原洋平さん(バリトン)、原島拓也さん(作曲)、永田斉子(月琴)、榊真由さん(指揮)、中村隆人さん(チェロ)、吉田 瑳矩果さん(ハープ)。

前列左から:鈴木友裕さん(チェレスタ)、野田枝里さん(バロック・フルート)、本田梨紗さん(ヴィオラ)、塩加井ななみさん(ヴァイオリン)。

 

リハーサルから本番終了までずっと和やかな雰囲気で、チームワークの良い楽しいアンサンブルでした。

 

 

 

原島拓也作曲「胡蝶」小道具の風鈴の写真

作中、歌手が歌の合間に、扇で風を送って風鈴を鳴らす、というパフォーマンスがありました。

これがリハーサルでなかなかタイミングよく鳴らなくて・・・。

工夫の末に、色も形も違う3個編成で!

風鈴の音がチリリーンと鳴ると、会場に風が吹き渡ったような気がしました。

 

曲の最後、「私は蝶・・・それとも」という言葉が呼応する中、
月琴の胴を煽って「カラカラ」(月琴の胴内に仕込まれた金属の線)を鳴らします。

だんだんゆっくりと、遠ざかっていくように。

静寂の中、響き線の振動がかすかな音を残しながら、
ゆっくりと止まるのを待っていると、
ふと「さっき風鈴を鳴らした風は、実はこの月琴が送った風では?」
という錯覚に陥りました。

 

まさに「私は蝶、それとも?」ならぬ、
私が手にしているのは「月琴、それとも団扇?」
「鳴っていたのは、風鈴の音、それとも月琴のカラカラ?」
と両者が交錯する不思議な世界へと迷い込んでしまいました。

通常のコンサートでは体験できない、まさに現代音楽作品ならではの、強烈に記憶に残る公演となりました。

 

 

◎最後に、当日配布されたプログラムに掲載されていた原島拓也氏による解説を記しておきます。


 

『胡蝶』原島拓也 作曲

〜バロック・フルートとハープとチェレスタとバリトンと月琴とヴァイオリンとヴィオラとチェロのための明清楽へのオマージュ〜

 

ここ数年来、私の創作活動と明晰夢は密接な関係にある。今回の作品は、莊子による説話「胡蝶の夢」のインスピレーションによるものである。

全体が霊妙な質感に支配されていて、ひとつの音像は、蝶を模した断片で、それらの集合体のテクスチュアは、実は、もう少し大きな時間軸で見てみると、それらも断片に過ぎない形で数珠繋に描かれている。脈絡を持たない夢に相応しい、揺らぎで満たされた音響空間の造形を試みている。

夢を映す室内楽、現実を描写するモノドラマ、現代に於ける月琴協奏曲、多くの構造を持ち、何にでもなりうる強度を持ち合わせ、何にも当て嵌らない。それは明治時代まで広く日本で楽しまれた明清楽の比較的自由なスタイルに着想を得たものである。

本日、指揮と演奏をして下さる皆様、また今回の作曲にあたり、月琴奏者の永田斉子さんのCDをきっかけに、月琴という楽器を知ることができ、また、お忙しい中、演奏も快くお引き受けいただくことができました。心より感謝申し上げます。