YAMAHAが発明した「ヴィオリラ」という楽器の名前の由来は、17世紀のリラ・ヴィオールか。
2019年11月に朗読音楽会「ロバのおうじ」群馬での2公演では、朗読の木村由紀さんが「ヴィオリラ」という珍しい楽器を演奏して下さいました。
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「ヴィオリラ」という楽器を知っていますか?
「ヴィオリラ」という楽器をご存知でしたか?
私は、このヴィオリラという楽器、今回木村さんとご一緒するまで存在すら知りませんでした。
マイナーな楽器は、リュートだけではなかった!
↑ リハーサルの時に、演奏者視点から撮影させていただきました。
右手に弓をもち、左手はピアノの鍵盤のようにならんだボタンを押しています。
ボタンの下には弦が張ってあって、ボタンを押すことで弦が押さえられて、音程を生み出すしくみ。
ボタンの部分は、タイプライターのキーのような形で「大正琴」に似ています。
大正琴は、右手でピックを用いて弦を「はじく」のに対し、このヴィオリラは「弓で擦る」点が違います。
↑ 高崎市のアトリエミストラルでの公演で演奏中の木村さん。
お客様から見るとこんな感じ。
ヴィオル Viol +リラ Lyra = ヴィオリラ
さらに、ヴィオリラという名前が「ヴィオル Viol」+「リラ Lyra」であることから予想されるように、弓で擦る奏法が「ヴィオル」に当たるなら(↑の写真)、「リラ」つまり楽器を肩にかけるように立てて構え、ハープのように指で弦をはじく奏法もあります。(↓の写真)
二つの奏法がある、と知った時「弦にかかる重力の方向が違うから、音程を決めるのが難しそうだな」と思いましたが、木村さんにお聞きしたところ、やはり音程のコントロールが難しい楽器だそうです。
普通のヴァイオリンやチェロは押さえる場所を微調整することで音程を作る事ができますが、このヴィオリラはボタン状の鍵盤になっていますからねー。微調整する幅に限度がありそう。
本体部分は空洞ではなく、エレキギターと同じように一枚板で、アンプを通して音量の変化をつけることが出来ます。公演では、木村さんのお弟子さんによるピアノ伴奏で、アンサンブルをご披露下さいました。
ヴィオリラはYAMAHAが考案した楽器
このヴィオリラという楽器は、楽器メーカーのYAMAHAが、21世紀になって開発したものだそうです。
その元になったのが、大正琴。
YAMAHAのサイト「大正琴 &ヴィオリラ誕生ストーリー」ページがとても面白いので、ぜひ読んでみて下さい!
大正琴の発明者は明笛の名手だった!
まずは、大正琴についての項。
何と!
大正琴を発明した森田吾郎という人物は、明笛の名手だったとは。
「明笛を手に海外へ・・」というフレーズがちょっと笑えますね。
明笛(みんてき)とは、明清楽の楽器の一種で、よく月琴と合奏したりします。明清楽とは幕末に中国から日本に伝わった世俗音楽のことで、明治時代に大流行した音楽です。
↓ 男性が演奏しているのが明笛。左の二人の女性が月琴を弾いています。家庭での合奏の際、多くは家長が明笛を担当しました。
ずっと前から「大正琴って、明清楽と共通しているところがあるよなー。」と漠然と思っていたのですが、発明者の音楽的基礎として明清楽があったんですね。
明治時代になって、日本人が西洋音楽を習得する際、基礎となったのは邦楽だけでなく、明清楽があった、と考えていますが、上記のことも一つの証左となりそうです。
ヴィオリラから、思いがけない明清楽についての情報。(嬉しい)
世界中の様々な弦楽器をこの一台で!
そして上記サイトでは、大正琴に似ている楽器として「ハーディーガーディ」が登場、さらにリュート型のボディ・・などと話が急展開していき、肝心のヴィオリラへと。
「ヴィオリラという名前は、・・・(弦を)擦ることもはじくことも、どちらも楽しめる一台ということから付けられました。世界中のさまざまな弦楽器の楽しみを一台で手軽に体感できるのがヴィオリラの特長です。」
YAMAHAサイト 大正琴&ヴィオリラ誕生ストーリー https://www.yamaha.com/ja/musical_instrument_guide/taishokoto_violyre/structure/
「世界中のさまざまな弦楽器の楽しみを一台で!手軽に!」
さすが大手楽器メーカー、YAMAHAならではのパワーワードです。
ヴィオリラを動画サイトで検索すると、私が今まで知らなかっただけで、演奏する方がたくさんいらっしゃるんですね。どんな音がするのか興味のある方は、Youtube動画での検索一覧からどうぞ!
17世紀イギリスにリラ・ヴィオールという楽器があるよね?
ところで、17世紀のイギリスの楽器にリラ・ヴィオールという楽器がありますよね。↓こんなの。
一言でいうと、ヴィオラ・ダ・ガンバの小型のもの。
CD「2つのリラ・ヴィオールのための作品集」(演奏:ヒレ・パール&フリーデリケ・ホイマン)の解説によると
リラ・ヴィオールとは17世紀にイギリスで人気の高かったヴィオラ・ダ・ガンバの一種。楽器そのものは通常のヴィオラ・ダ・ガンバと似たものですが、調弦法が60種近くも存在したというのはユニークです。このリラ・ヴィオールのためには多くの作品が書かれていたようで、1601年から1692年にかけて、18の印刷譜が出版、50以上の手稿譜も現存しており、一部は断片とはいえ、作品数としてもまとまった規模のものが遺されています。
2つのリラ・ヴィオールのための作品集
上記CDの収録曲には、リュート奏者にはおなじみのホルボーンや、アリソン、ダニエルなどの作曲家が並んでいます。
リラ・ヴィオールの「リラ」の意味は、和音を弾くときの奏法が、リローネに似ていることから来ています。
ヴィオリラとリラ・ヴィオール
リラの意味合いは少々違うのではありますが、YAMAHAが21世紀にヴィオリラを開発して名前をつける時、17世紀の楽器リラ・ヴィオールの存在を知らなかったはずはありません。
リラ・ヴィオールと重ならないよう、言葉をひっくり返したという可能性も大いにありそうです。
まあ、真意のほどはわかりませんが、朗読音楽会「ロバのおうじ」でリュートとジョイントさせていただいたヴィオリラという楽器を調べるうちに、大正琴から、月琴の仲間である明笛へ。
そしてリラ・ヴィオールの作品を残したのはリュートの作曲家と重なる・・・と話がグルっと一巡しましたね。
世の中はまだまだ知らないことと、新たな発見に満ちあふれています。
▼ヒレ・パール姉さん、美しくて素敵!