天正遣欧少年使節はなぜ4人だったのか?

天正遣欧少年使節

天正遣欧少年使節は、なぜ[4人]だったのだろう?

キリスト教的に良さそうな数字、3でも9でもなく、日本では死を連想させる不吉な数字「4」人なのはなぜ?

そう思ったことはありませんか?
今日は、演奏者の立場から、思いついたことがあったので書いてみますね。

若桑みどり氏『クアトロ・ラガッツィ』

この使節団の「人数」に着目して独自の解釈を展開した人といえば、若桑みどり氏が挙げられます。

著書『クアトロ・ラガッツィ〜天正少年使節と世界帝国』が刊行される少し前、レクチャーコンサートのイベントでご一緒させて頂く機会があり、そのご説をお伺いして度肝を抜かれました。

若桑みどり氏は、「極東の日本からやってきた使節たちがローマ教皇に拝謁する場面を、聖書における東方三博士の礼拝になぞらえる意図があった」と推測します。

「東方三博士の礼拝」とは、イエス・キリストの誕生の際、贈り物を手にした3人の博士たちが東方からやってきて祝福するというシーンです。クリスマスの題材として、美術作品にも数多く描かれています。

東方三博士の礼拝ジオット
「東方三博士の礼拝」ジオット

東方三博士の礼拝

東方三博士がイエス・キリストを礼拝したように、ローマ教皇にひざまずく少年使節たち。
一般のキリスト教徒がこの情景を見れば、否が応でも教皇の権威は高まるだろう。
そして、このシーンを再現するには、使節は3人でいい。・・・

こう考えたのは、むしろ使節を迎え入れるローマ教皇・枢機卿サイドでした。

しかし、やってきた使節は4人。さあ、どうする!

東方の三博士礼拝メムリンク
「東方三博士の礼拝」メムリンク

3名+スペア1名=4名

都合が良いことに、と言っていいのか、ちょうど使節の一人、中浦ジュリアンが熱病にかかります。

それほど重症ではなく、ジュリアン本人は拝謁の場への参加を希望したものの、枢機卿らの画策と大人の諸事情により、表向き「中浦ジュリアンは重症の病気になった」ことにされてしまいます。

最終的に3人だけが、豪華な馬に乗って儀式に臨み、東方三博士の礼拝さながらのシーンが再現されることとなったのです。

これに加えて、そもそも数年にわたる危険な船旅、途中で病気や事故によりメンバーが欠けることも考慮しなければなりません。

他の3人に比べ素性のよくわからない中浦ジュリアンは、もともとスペア要員だったのかもしれない、と若桑氏は推測しています。

簡単ですが、以上が、若桑氏による「なぜ天正遣欧少年使節は4人だったのか?」に対する解釈です。

いかにも美術・図像学者らしい視覚的イメージからの着想ですが、中浦ジュリアンがスペア要員というのは哀しすぎ、気の毒すぎますね。

ローマ教皇が個別にジュリアンと面会してくれたこと、それから約400年後、4人のうち、ただ中浦ジュリアンだけが福士に列せられたことが、せめてもの救いかもしれません。

合奏するなら

では、天正遣欧少年使節がなぜ4人か、音楽の立場で考えたことを書いてみますね。

「当時の作品を演奏するのに、4人が必要だったから」

「なーんだ・・・。」と思いました?

意外と誰も言ってないことじゃありません?

もちろん5声以上の音楽作品もありますが、声楽曲にしても器楽曲にしても(というか当時は、声楽と器楽の区別はされていないけど)、宗教曲でも世俗曲でもだいたいにおいて4声体が多く、4人いればたいていの曲が楽しめると思いませんか。

前記事とも関係するのですが、リュートやビウエラは日本で弾かれていたか?という議論のときに、

「リュートは和音を弾かなければならないので、日本人には難しすぎて弾けなかったはず」という説が必ず出てきます。

そうです、リュートは難しい楽器です。

でも合奏の時、必ず和音を弾く必要はなく、単旋律でも全然OKなのですよ。

各自、楽器の音域が合う声部をどれか一つ弾けばいい。
メンバーが4人いれば、たいていのルネサンス音楽はそれで十分成立するし、楽しく合奏できるように出来ています。

リュートは余裕が出来たら、自分の担当声部(例えばアルト)とバス声部の2声を弾くとか、3声の和音を時々混ぜて弾けば良いのです。

これが3人しかいないと、必ずどこかの声部が欠けていることになって、対位法のメロディーラインを考えるしても、和音の響きにおいても、ルネサンス音楽としては不完全で面白くない感じ。

往復8年の長い船旅。

嵐や病気など辛いこともあったでしょうが、せめて穏やかな航海の時は4人で合奏しながら楽しく過ごしていたはず・・・と思いたい。

一人はスペア説は、ちょっと悲しい。

天正遣欧少年使節はなぜ4人だったのか?

私の答えは「当時の音楽を演奏するのに、4人が必要で最適だったから」です。

どうでしょう(笑)?

▶天正遣欧少年使節に関する過去記事です。

▼ボリュームがありますが、まとまった資料集としても読み物としてもおすすめ。

クアトロ・ラガッツィ(下) 天正少年使節と世界帝国 (集英社文庫) [ 若桑みどり ]
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Amazon Prime videoに収録されているドラマ『MAGI』は、先に紹介した若桑みどり氏の『クアトロ・ラガッツィ』の説に基づいて創作されています。音楽にリュートの佐藤亜紀子さんが参加されていますので、合わせてぜひご視聴下さい。おすすめです。